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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)3005号 判決 1960年12月26日

控訴人(被告) 東京国税局長

被控訴人(原告) 株式会社堤ボタン店

訴訟代理人 朝山崇 外三名

原審 東京地方昭和三二年(行)第九〇号(例集一〇巻一二号228参照)

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は……(証拠省略)……ほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

第一、被控訴人主張のように、被控訴人が昭和三二年二月九日抵当権実行による競売事件の競落許可決定により原判決添付目録記載の本件建物と土地との所有権を取得したこと、被控訴人がその所有権取得登記を申請したところ東京法務局登記官吏は右不動産の価格を登記嘱託書に記載せられた価格と一致する一、〇〇〇万円と認定しこの登録税五〇万円を納付するよう被控訴人に申し渡した。被控訴人はこれに不服であつたので控訴人に対し審査の請求をしたが、この請求が棄却せられたこと(原判決事実摘示原告の主張一、二)は当事者間に争がない。

第二、東京法務局の登記官吏の行政処分の有無について。

右第一に記載する本件の事実関係の下において、東京法務局の登記官吏が不動産の価格の認定について、審査請求の対象となる行政処分を行つたものと解すべきことは、原判決の理由において詳細説明するとおりであるから、左記の説明を付加した上、ここに右理由の説明を引用する。

本件登記の嘱託庁たる裁判所が収税官吏でもなく、また、納税義務者でもないことは、いうをまたないところであるから、裁判所が嘱託書に課税標準価格及び登録税額を記載したからといつて、それが課税標準価格及び登録税額を収税官吏として認定するものでもなく、また、納税義務者としてこれらを申告するものでもないことは明らかである。したがつて、控訴人の主張するように、登記官吏の認定処分がないとすれば、登記嘱託の場合には、納税義務者の申告も、収税官吏の認定処分もないのに、課税標準価額及び登録税額が決定することとなり、このような解釈は極めて不合理であるから、到底これを採用することができない。本件において、納税義務者たる被控訴人がなんら申告したものでないことは明白であるから、登記官吏の認定処分によつて課税標準価格及び登録税額が決定せられたものと解するほかない。

なお、裁判所の登記嘱託書に記載せられた不動産の価格が課税価格として正当でない場合に、これに対する当事者の救済方法がないという解釈は結果的にみても相当ではないから、何等かの不服方法は肯定されなければならない。そして、その救済方法としては嘱託書記載の課税標準価格に不服あるものとして嘱託庁である裁判所に対し異議の申立とかその他の不服申立をなしうる法律上の根拠はないし、また、本件のような税に関する処分について訂正を求めるのはその処分の性質上先づ行政庁である国税局長に対し審査請求の方法による不服申立を認めるのが相当である。

第三、課税標準価格の認定について。

被控訴人は、登録税法にいう課税価格はその不動産の客観的価格でなければならないとし、本件不動産の固定資産課税台帳登録価格が四、一五四、二七三円(建物一、二七四、二〇〇円土地二、八八〇、〇七三円)、裁判所が競売手続において鑑定を命じた鑑定人の鑑定価格及び裁判所の指定した最低競売価格が七、四五〇、〇〇〇円(建物五、四五三、〇〇〇円。土地一、九九七、〇〇〇円)であるから、本件不動産の価格は右四、一五四、二七三円ないし七、四五〇、〇〇〇円の範囲内にあるものといわなければならない。しかるに、登記官吏はこれを競落価格である一、〇〇〇万円と認定したが、右は裁判所がその登記嘱託書に課税価格として記載した本件競落価格をそのまま採つて認定したものであるところ、この競落価格は被控訴人がその営業上どうしても本件不動産を入手する必要があつたため競売の際には被控訴人と外数名の競買人がせりあげた結果不当に高額となつたものであつて、特殊事情の下に形成された価格であるから客観的な相当価格ではない、と主張している。そして右被控訴人の主張のうち、課税価格が客観的な相当価格でなければならないこと、本件不動産の登録価格、鑑定価格、競売価格及び競落価格がいずれも被控訴人のいうとおりであることは控訴人の認めるところである。

そこで本件不動産の課税価格としての客観的な相当価格がいくらかということが問題となるわけであるが、原審証人安達幸衛当審証人小倉豊八の各証言成立に争のない乙第一号証の一、二右安達証人の証言により真正に成立したものと認める甲第四号証を綜合すると第一回の競売期日において安達弁護士は被控訴人の代理人として競買の申出をしたのであるが、その際他にも競争者が二人程あつて、次第にせりあがり、競争者の一人であつて本件不動産の抵当権者三和銀行が九九〇万円までの申出をしたので結局被控訴人は一、〇〇〇万円で競落するに至つたものであること、被控訴人はボタン、婦人子供用附属品等の問屋を営んでいるのであるが、横山町、馬喰町は周知のように卸売問屋街であつて、防火地区の関係から鉄筋コンクリートの共同商店を建築することになり、このためその建築中は被控訴人も一時他の適当な所に移転せねばならず、それには本件の競落土地が場所も近くて適当であるというので三和銀行からの話でこれを知り、被控訴人が競売に参加することになつたのであるが、三和銀行は本件不動産の抵当権者ではあつたが本件不動産以外にもその債権には抵当物件があり、本件競売において時価以上にせりあげてまで競落せねばならなかつたような特殊事情は何もなかつたのであつて(しかし、安達弁護士は時価相当額以上にせりあがつたものと思つていたこと。)結局競落代金一、〇〇〇万円は時価相当額と認めるのが正当である。従つて、これと異なる評価をしている甲三、五号証は採用することができない。

以上認定のとおり、本件において登記官吏がなした不動産の価格の認定処分は相当であるから、控訴人が被控訴人の審査の請求を棄却したこともまた相当といわなければならない。したがつて、右決定の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当である。

よつて、右請求を認容した原判決を取消し、右請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 山下朝一 元岡道雄)

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